小説 [フーガ 遁走曲 / 白薔薇婦人が愛した庭 ] なつのまひる 著

1980年代のヨコハマを舞台に繰り広げられる物語

第一章 アンダンテ

1 始業式を終え新年度がスタートしてから最初の週末。この春高校2年生になったミオ[山本 澪(ヤマモト ミオ)]は帰りのホームルームの終了を楽しい気持ちで待っていた。ミオは部活も習い事もしていないので、いつもは放課後の時間を持て余し気味なのだが、今日は予…

第二章 菩提樹

1 その人の名は森山美貴子(モリヤマ ミキコ)といい、富士子より10才年長で、富士子が姉のように慕っていた女性だそうだ。 そもそもの付き合いは、富士子より夫の義孝の方が先であった。義孝が職場で美貴子の夫、森山静雄(モリヤマ シズオ)の部下となった時からだ。静雄…

第三章 トッカータ

1 「それって何だか意味深だけど『生きて帰った老人はいない』って事はさ、もしかしたらそこって老人ホームなんじゃないの?終の住処って事を、わざとそんな風に言っているとかさ……」 学食で一番人気の月見そばを食べていたイズミが、八木から聞いたという…

第四章 3つのジムノペディ

1 橋田智也(ハシダ トモヤ)はいつもの様に、苦悩の表情を浮かべていた。 「親父の分からず屋め!二言目にはカネ、カネだ!」 「今夜はまた随分おかんむりですね。お坊っちゃま」 そう言ってバーテンダーはグラスをスーっと智也の前に置いた。 「タカさんったら、…

第五章 月光

1 『周囲の人から何か情報が入手出来るかもしれない』 ミオと八木は、橋田病院のウワサの真相について近隣住人から情報を得たかった。しかし、橋田病院周辺には住居どころか何も無かった。あのタクシー運転手なら何か知っている筈だが、もう一度同じ運転手に…

第六章 ボレロ

1 捜査一課の山崎は、腕利きの刑事だ。数々の難事件を解決してきた切れ者だ。悪知恵の働く犯罪者達が考え抜いたトリックも、山崎の推理力を持ってすれば造作無い事だった。 それなのに、昨夜の若い女性による通報に始まり、唐突な自白……。それによって、橋田…

第七章 アヴェ・マリア

1 義孝の葬儀から一週間後、ミオは富士子から電話を受けた。バラを見に行こうという誘いだった。富士子は気丈に振る舞っているが、夫を亡くした空虚感や寂しさは、何時ともなく湧き上がるものだろう。外出して気分を紛らす事は良いことだ。それに、好きな花…